小川隆夫/平野啓一郎「TALKIN’ジャズ×文学」:「好き」は原動力
マイルス・デイヴィスというビッグ・スターが生み出した縁により昨年発売となった、自称ジャズ「感想文家」小川隆夫氏と作家の平野啓一郎氏による対談本(平凡社)。
「前置きにかえて」で平野氏が冒頭で書いているように、「これまでどちらかというとジャズとは縁のなかった人、あるいは、興味はあったけれど、手を着けかねていた人にも、十分楽しめる内容になっている」オールマイティ本です。
かくいう私も、ハマったらこわい、とどちらかといえばジャズはどちらかといえば敬遠ぎみでしたが、こんなにも楽しそうに話す両氏の会話を又聞き(読み)したことで「試しに二人のセレクションアルバムでも聴いてみようかな…」という気がムラムラッと起き始めています。
それにしても、作家の平野氏がここまでジャズを聴き込んでいるとは驚きでした。
私が耳にした事もない音楽を氏が言葉で表現すると、さすが感性と言語を緊密に結びつけることを日々生業とする方だけあって妙にミュージシャンの曲や演奏方法がイメージしやすいんですね。
実際にジャズを聴いてこの本をもう一度読み返してみたら、また面白いかもしれません。
ジャズの件は抜きにしても、私自身感じるところがあったのは、批評のスタンスについて両氏がどう考えているかが語られている部分です。
両氏に共通しているのは、「貶すのは不毛な行為だ」という考え。
本からちょっと抜粋すると:
平野「僕がフランスに行って面白いと感じたのは、向こうの人は、批評に対するアプローチが割とはっきりしてるんですね。さすがにフランスというか、心理を明かすという態度ではなくて、こういう見方もありますよという感じなんです。…ある作品の価値を云々するわけではなくて、こういうアプローチでこっちから光を当てるとこう見える、またそちら側から光を当てるとこう見えるという、そういう相対性を尊重している気がしました。これはむしろ、研究者的な態度かもしれないし、もちろん、僕が知った極限られた人たちの話だから、実際はまた全然違う状況もあるんでしょうけど。でも、そうした態度は、作品の鑑賞の可能性を広げていってくれると思うんですね。…
僕が小川さんの書かれているものを読むのが好きなのは、やっぱり、音楽に対する愛情が感じられるからなんですね。音楽が本当に好きな人が書いているという感じが伝わってくる。文芸批評を書いている人の中にも、この人は本当に小説が好きなのかな、小説が彼の人生にとって決定的に重要だったということが、一度でもあったのかなと思うような人も結構います。そういう人の、単に頭でっかちなだけの批評は、僕は読みたくないですね。…
…褒めるためには、やっぱり作品を理解してなければならない。何でいいのか、という説明は、何でダメなのかという説明より、何時でもずっとクリエイティヴだと思います。だから、僕はある批評家が優秀かどうかを判断するためには、彼が何を貶しているかじゃなくて、何をどんなふうに褒めているかというそっちの方を見るんです。そうすると、大体、その人のレヴェルが分かりますね。ああ、この程度のものを、そんな理由で褒めるわけね、じゃあ、あの作品の価値も分からないわけだと。逆に、酷評してる人に、じゃあどんなのがいいわけと訊くと、結構口ごもる人は多いですよ。…」
小川「高校生の時ですが、新聞で読んだのかテレビで観たのか忘れましたが、古典演芸の評論家で高名な安藤鶴夫さんがこんなことを言っていたんです。『わたしは絶対に落語家を貶しません。どんなにひどい噺(はなし)でも、どこかに一つぐらいはいいところがあるんです。それを見つけるのが自分の仕事だと思っています。わたしたちの役目は噺家を育てる事で、貶してその噺家をつぶすことじゃないんです。文句をつけるのは師匠の役目ですよ』。安藤さんは随分以前に亡くなっていますが、この言葉がいつまでも頭に残っていたんですね。それで、自分がこういう立場になった時に、『そうだ、その精神を受け継ごう』と思い、それで現在までやってきているところもあるんです。」
この話から、『「好き」こそすべての原動力』という話題にシフトしていく訳ですが、この引用させていただいたくだりに、両氏の「創造性」に対するひとつの(基本的な)考え方が提示されているように思います。
これは日常生活のこまごました事にも言えることなのでしょう。振り返って、自分が本当に好きなものって何だろうか、本当に好きなものってあるんだろうか、と考えてしまいました。
問いに対する答えはまだまだ先のことになりそうです。
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